ウエルフェアみやざき総合研究所

〒880-0036 宮崎市花ヶ島町笹原2241−4

TEL : 0985-41-6540

メッセージ一覧

  • ホーム
  • 【第1回目】共依存社会に生きる(宮崎日日新聞「論風」2004年5月3日)

【第1回目】共依存社会に生きる(宮崎日日新聞「論風」2004年5月3日)

【第1回目】

共依存社会に生きる(宮崎日日新聞「論風」2004年5月3日)

 

 共依存とは「他人から依存されることに依存する」という関係性の病いである。人の役に立つことで自分の価値を判断してしまい、常に自分を必要としている人がいないと不安になるため、その不安を打ち消すべく人との関係にのめり込む。

 オリジナルは「アルコール依存症の妻」で、飲んでは不始末を繰り返す夫の世話を甲斐甲斐しく焼き、罵倒され暴力を振るわれても夫と別れようとはしない。「私が居ないとあの人は生きていけない」「夫の問題を解決するのは私しか居ない」と思い、そこに自分の生きる価値を見出そうとする。そして問題が解決しないのを「私のせい」と思い、ますます夫との関係にのめり込む。たとえ夫と離婚したとしても、成熟した男性には魅力を感じないどころか恐れすら感じ、何かと問題を抱えた男性に心惹かれて同じことを繰り返す。彼女に決定的に欠如しているのは夫との線引きであり、私は私のままの私であって良いという自己肯定感である。

 やや極端な話をしたが、私が宮崎県精神保健福祉センターの所長をしていた頃に県内の約2,700人の女性を対象に共依存傾向に関する調査研究を行なったことがある。共依存尺度として米国のアルコール依存症治療研究機関のスタッフが作成した質問項目と判定基準を採用した。「私は自分自身に関心を向けることは間違っていると思う」「私は親切にしてもらうよりは、してあげる方を好む」「私は人から誉められることが必要であり、それによって自分がうまくやれているかどうかが判る」「私は自分に対して過度に義務を課したり約束をしてしまう。『はい、いいです』と言い過ぎる」「私は人のためなら積極的に発言できても、自分のための発言はできない」「私は人に助けを頼むくらいなら、自分でやったほうがましである」などの質問項目が並ぶ。そして結果は約95%の女性が共依存傾向が強いというものであった。

 ところでこのような共依存傾向は何も女性に限られたものではない。「苦しいこともあるだろう、言いたいこともあるだろう、不満のこともあるだろう、腹の立つこともあるだろう、泣きたいこともあるだろう、これらをじっとこらえてゆくのが男の修行である」という旧日本海軍の山本五十六氏の「男の修行」は、今も規範的な価値観として日本社会に根付いている。 

 男も女も「修行」に励み、他人のニーズを優先し自分のニーズで動くことを放棄している。そのために、虚しさ、不安、恐れ、悲しみ、怒り、恨み、恥じ等のネガティブな感情は徐々に肥大化し、遂にはうつ病やアルコール依存症といった病気に発展する。最近、社会問題になっている過労死や過労自殺、摂食障害、リストカット、ギャンブル依存、引きこもり、子ども虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)などの背景にも、共依存的な生き方が破綻したケースが少なくない。

 自分自身を大切にすること、自分の健康と安全を誰に憚ることなく優先できることは、大変価値のあることである。もしあなたが生きることに疲れを感じているのであれば、それまで信じて疑うことのなかったあなた自身の生き方や価値観について、少し立ち止まって考えてみてはどうだろうか。なぜなら、私達はバリバリの共依存社会に生きているのだから。