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【第10回目】 セミ・リタイアメント(日州医事No851「はまゆう随筆」2020年5月)
【第10回目】
セミ・リタイアメント(日州医事No851「はまゆう随筆」2020年5月)
あれから30年! 私が宮崎県精神保健福祉センターのセンター長をしていた時に欧州公衆衛生事業視察団に参加したことがあった。18日間かけてイギリス、フランス、イタリア、スイス、ドイツの5か国を公費で回る豪勢なツアーで、WHOをはじめ各国の公衆衛生関係の機関や施設を視察し、観光やグルメなどもしっかり楽しませていただいた。実に古き良き時代であった。このツアーで印象に残ったことのひとつにイギリスでのガイドの話がある。生涯収入が1億⒌千万円に達したら一旦仕事をリタイアして、後は週に2~3日好きな仕事だけをして気ままに生活する。好きな仕事がなければイギリスの失業者のスポーツであるゴルフをする。経済的豊かさではなく、ゆとりこそが「文化」であるというもので、彼はこれをセミ・リタイアメントと自慢げに語っていた。私はワークホーリックには是非聞かせたいと思う一方で、当時のイギリスは不況に喘いでおり、うまく開き直っているなと少々冷ややかに受け止めていた。
ところで今年の8月に私は古希を迎える。不思議なことに最近になりこのセミ・リタイアメントが妙に気になり始めた。そして、まだ気力も体力もあるうちにセミ・リタイアして、これまでとは少し違った生き方をしてみるのも面白いと考えるようになった。18年前に精神保健福祉センターを辞めて精神科クリニックを開業した時からいずれはホニャララ研究所とか訳の分からないものを立ち上げて、自分のしたい仕事だけをするという実に厚かましく我儘な「妄想」を持っていた。自分のしたい仕事とは基本的には私自身が楽しめること、人との輪が広げられること、いつ倒れても周りに迷惑をかけないこと、そして少しは社会に貢献できることである。
古希を迎えるにあたり、その「妄想」を少しリアルなものにしていきたい。しかし私のセミ・リタイアメントは「文化」とは全く関係なく、単に歳を取ってきたということなのだろうか…?
セミ・リタイアメント パート2(日州医事No859「はまゆう随筆」2021年3月)
昨年7月発行の日州医事No.851「はまゆう随筆」にセミ・リタイアメントについて寄稿させていただいた。今回はその続きで、私のセミ・リタイアメントとしてホニャララ研究所を作るといった「妄想」が何とかリアルなものになってきた。
昨年8月に古希を迎え、株式会社細見クリエーションズを立ち上げ、セミ・リタイアを目指してクリニックの後継者を探していたところ、幸運にも今年4月から意欲のある精神科医に承継してもらうことになった。晴れて私は身軽になり、細見クリエーションズの事業の一つとしてウェルフェアみやざき総合研究所を創設した。事業内容は精神科臨床からは少し外れ、医療・福祉・介護スタッフを主な対象とする研修会・ワークショップの企画運営、一般の方々に対する普及啓発のための講演会やイベントの開催、心の健康相談や調査研究などで、以前私が所属していた県精神保健福祉センターの民間版のような研究所である。
これまで私は、多くの患者さんとの出会いを通して様々な学びをさせていただいた。それは病気や障害の有無にかかわらず「よりよく生きる(ウェルフェア)」という前向きな態度こそが心の健康度を高めるということであり、そのためには安心して相談できる場、仲間や社会とのつながり、そして生きがいを持つことがいかに重要であるかを痛感した。
コロナ禍の中でこの研究所がうまく行くか行かないかは私にも自信はないが、多くの皆様の心の健康の維持・増進とともに暮らしやすい地域づくりに少しでも寄与できればと考えている。