ウエルフェアみやざき総合研究所

〒880-0036 宮崎市花ヶ島町笹原2241−4

TEL : 0985-41-6540

メッセージ一覧

  • ホーム
  • 【第17回目】統合失調症(下) (宮崎日日新聞社 細見コラム「よりよく生きる」2022年6月1日掲載分)

【第17回目】統合失調症(下) (宮崎日日新聞社 細見コラム「よりよく生きる」2022年6月1日掲載分)

【第17回目】

統合失調症(下) (宮崎日日新聞社 細見コラム「よりよく生きる」2022年6月1日掲載分)

 

統合失調症の原因はまだ詳細に解明されているわけではありませんが、以前からドーパミンという脳内の神経伝達物質(脳内ホルモン)のバランスの崩れが多くの研究者によって指摘されています。また、教科書的には自閉や能動性の減退、感情鈍麻などの陰性症状と、妄想、幻聴など陽性症状に分けて説明されているものが多いのですが、私は「ストレス脆弱性」と「思考回路の悪循環」の二つが基本症状であると考えています。

 

ある女性の患者さんは道ですれ違った人が笑っているのを見て自分が笑われているのではと不安になりました。別にそう考える確たる根拠はないのですが、「ストレス脆弱性」のために周りの動きに過敏に反応してしまったのです。徐々に外に出るのが怖くなって家に引きこるようになりました。しかし「思考回路の悪循環」のために終日そのことが頭から離れずに、何故、どうして?と「謎解き」ばかりしているうちに、自分には人とは違う何かがあり、そのために人から嫌われているという被害的な考えが出現し、それが確信に変わりました。同時に誰かが「お前は邪魔者だ。」「生きている価値はない。」と言っている心の声が聴こえるようになりました。自分の中にある不安が膨れ上がり、知覚化されたのです。彼女は周りの誰も信用できなくなり、不安で仕方がなく引きこもりを続け、そのうちに死にたいと思うようになりました。

 

薬物療法はドーパミンのバランスの崩れを整え、「ストレス脆弱性」と「思考回路の悪循環」に対して極めて有効です。しかしそれだけでは充分ではありません。家族関係を調整し、福祉的就労や障害年金制度などを活用して安心して生活できる環境を確保していくとともに、気持ちの切り替えを含めたストレス対策を患者さん自身ができるようエンパワーしていくことが必要です。そのことにより患者さんは統合失調症という病気を引き受け、前向きに生きることができると私は考えています。