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【第2回目】 子ども達を脅かすもの(宮崎日日新聞「論風」2004年7月5日)

【第2回目】

子ども達を脅かすもの(宮崎日日新聞「論風」2004年7月5日)

 

 近年、子ども虐待が社会問題として認識され、子ども虐待防止のための社会的仕組みが少しずつ整備されてはいるが、今なお多くの子どもたちの命が虐待により脅かされており、虐待事例への適切な危機介入とフォローのあり方に関する研究および実践は一刻の猶予も許されない。

 ところで、このような子ども虐待とは別に「優しい暴力、見えない虐待」というものがある。呼んで字のごとく基本的には善意であり、誰も気がつきにくいという点では子ども虐待以上に深刻な問題をはらんでいる。

 成績が良ければ愛してあげるといった「条件付の愛メッセージ」、テストで八十点取った子どもに残りの二十点はどうしたのと聞いてしまう「値引きメッセージ」、子どもが何か新しいことに挑戦しようとする時に危ないからといってダメ、ダメを連発する「不安の先取りメッセージ」、いつも仲良くニコニコ笑顔でという「感情否認のメッセージ」は比較的多くの家庭でごく当たり前に見られる。

 学校では価値あるものは学習能力と運動能力であり、それ以外のものは殆ど評価されることはない。考える子どもにはつらいであろう意味のない校則が絶対的なものとして押し付けられ、内申書を通して教師から見た「イイ子」が子ども達に求められる。善行児童表彰なるものがそれに拍車をかけているが、言うまでもなく問題は表彰される子どもではなく、その行為を表彰の対象として考える大人にある。そしていつも仲良くニコニコ笑顔でという「感情否認のメッセージ」はここでもさらに強調されている。 

 このような家庭環境や学校環境の中で子ども達がありのままの自分で居続けることは、よほど勇気のある子どもを除いて至難の業である。親や教師の顔色ばかりを見て我慢して生きる、換言すればしたいことをせずに、したくないこと、させられることばかりをして生きることは、自分で考えなくて良い分楽な生き方ではあるが、そこから自己肯定感が生まれるはずはなく、中央教育審議会が六年前に示した「生きる力」は決して育まれることはない。

 このような子ども達にとって最大の不幸は信頼に値する大人との出会いがなかったことであろう。子ども達が必要とするもの、すなわち愛情や注目、理解、肯定を与えてくれる大人、子ども達が問題を抱えた時に問題が問題であって、あなたが問題ではないことを繰り返し伝えることのできる大人、子ども達と問題解決の方法について対等に話し合うことのできる大人、そして自分自身が持っている課題に真剣に取り組み、その姿を率直に子ども達に見せることができる大人こそ、子ども達にとって信頼に値する大人なのである。

 さて、そのような大人が私たちの回りにいったいどれくらい居るのだろうか。私はそのような大人に一歩でも近づきたいと思うし、そのような大人が一人でも多く増えることを心から願っている。これは子ども達ばかりのためだけではない。私たち大人自身のためにでもある。