ウエルフェアみやざき総合研究所

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【第20回目】宮崎日日新聞生活情報「ゆとり」寄稿 2022年7月13日掲載分

【第20回目】

宮崎日日新聞生活情報「ゆとり」寄稿 2022年7月13日掲載分 

よりよく生きる 20

 

高齢化社会と認知症(中)~認知症の達人を目指して~

ウエルフェアみやざき総合研究所 精神科医 細見 潤

 

認知症の基本症状はもの忘れです。加齢とともにもの忘れは誰にでも起こりますが、認知症では今あった出来事すら忘れてしまいます。また加齢に伴うもの忘れでは食事で何を食べたか思い出せないことがあるのですが、認知症のそれは食事したこと自体を忘れてしまいます。さらに認知症では直近のことから段々と記憶が失われる逆行性健忘のために生きている時代も段々と遡り、その時代を生きている感覚になります。そしてそれらのもの忘れのために認知症の人は日常生活に様々な支障をきたすようになりますが、もの忘れすることを忘れるために自覚が乏しく、周囲の人から指摘されると否定したり、取り繕ったり、中には被害的になり攻撃的になる人もいます。もの忘れがあってもプライドは保たれているからです。しかし一方では認知症の人は周囲とのずれに戸惑い、何かがおかしいといった不安や焦り、自信喪失、孤独、あきらめを感じています。そのため周囲の人はこのような認知症の人が体験している世界や心理状態を理解し、認知症のある人に尊厳をもって接することが重要です。

 

また、認知症の人の中にはもの盗られ妄想や嫉妬妄想などの症状が出る場合もあり、本人にとっても周囲の人にとっても大きな精神的負担になります。私が係わった70代後半の患者さんは夫が浮気しているという嫉妬妄想があり夫との口論が絶えませんでした。かつて夫が一度だけ浮気をしたことがあり、彼女はそのトラウマが癒えていなかったのです。

 

「認知症の達人」になるための条件のひとつは前述した周囲の理解と適切な対応ですが、もうひとつの条件はその人自身が抱える過去のトラウマやこじれた人間関係を整理し、できるだけものや人に対する執着心を捨てて日ごろから肩の荷を下ろしておくことだと思います。私にそれができるかどうかあまり自信はありませんが、そのことにより認知症になっても穏やかに「よりよく生きる」ことができると私は思っています。