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【第9回目】 地域回想法について(宮崎県健康づくり協会Sante宮崎92巻 2020年5月号)

【第9回目】

地域回想法について(宮崎県健康づくり協会Sante宮崎92巻 2020年5月号)

 

 回想法は米国の精神科医ロバート・バトラーが1963年に提唱した心理療法です。何歳になっても「行け行けドンドン」、前ばかり見てポジティブに生きている人は素晴らしいと思いますが、一方では昔を懐かしむのはごく自然なことで、決して年寄りくさいわけではありません。バトラーは人生を内的に振り返りながら、自分の人生を再確認し、もしも過去に未解決な心理的葛藤があればそれに向き合い、それを人生の中の意味あるものとして「再統合」していくライフレビュー(人生回顧)はとても価値のあることだと言っています。

 ところで私たちはこの世に生まれ、成長し、老いて、死を迎えます。そして乳児期、幼児期、児童期、青年期、成人期、老年期のそれぞれのステージでいくつもの課題に直面します。それらをうまくクリアすることで、その人の人生は豊かなものになり、そして人間的な成熟にもつながるのですが、老年期の課題は「自我の統合」であるとエリクソンという有名な心理学者は言っています。まさに、回想法はその課題をクリアしていくための有効な手段になるのです。

 また「自我の統合」とまでは言わないまでも、一般的な回想が高齢者を元気づけることは既に証明されています。北名古屋市では2002年度から介護予防事業の一つとして「回想法スクール」を始めました。これは年4回開催、1クール8回で10人ほどの高齢者の参加を募り、そこに市の保健師、回想法担当職員、ボランティアなどがリーダー、コ・リーダーとして加わります。初回は参加者それぞれが自己紹介を兼ねた「お国自慢」を披露し、その後はその時の参加者によって、「子供の頃の遊び」「お正月」「夏祭り」「好きだった食べ物」など自由に「お題」を決めて思い出を語ります。これまでの回想法スクール修了生は既に500人を越えていますが、北名古屋市の素晴らしいところは「回想法スクール」を修了した人が、自主的に「いきいき隊」というグループを組織して、継続的な活動に参加するという仕組みを作っていることです。

 北名古屋市には昭和日常館と言われている歴史民俗資料館と、国の登録有形文化財に指定された「旧加藤家住宅」があり、その加藤家住宅の敷地内に日本で初めての回想法センターがあります。これらの施設が「いきいき隊」の活動の場であり、年間を通して開催されるセンター事業の支援やセンター来客者への応対をしています。また、市の児童館の行事には積極的に参加して、例えばジャガイモの収穫では芋の剥き方など児童に教え、一緒にカレーライスづくりをしたり、夏祭りでは昔のおもちゃのつくり方を子どもたちに教えたりと、文化の伝承にも一役買っています。その結果、参加した高齢者の健康度は高まると同時に、地域内の多様な交流が始まり、まちづくりに大いに寄与しています。また回想法スクールに参加した人の医療費が参加前に比較して参加後では約6分の1にまで圧縮できたという調査結果も出ています。私も数年前に北名古屋市に出向き、たまたま開催されていた北名古屋市主催の「全日本製造業コマ大戦」に参加しましたが、多くの「いきいき隊」の皆さんが、その名の通りいきいきして地域の子どもさん達とコマづくりやコマ回しをしている姿を見せていただき、とても感銘を受けました。

 私のクリニック(旧細見クリニック)では認知症高齢者を対象にしたデイケアを併設し、日ごろから回想法を取り入れた活動をしており、回想法は認知症のリハビリテーションにとても効果的であると実感しています。しかし回想法は認知症高齢者のリハビリテーションだけでなく、北名古屋市のように一般高齢者のいきがいづくりや健康づくり、そしてまちづくりにも極めて有効で、これを私たちは地域回想法と呼んでいます。

 この地域回想法を宮崎の地に根付かせるために、私は我が国の回想法を主導している先生方や北名古屋市や富山県氷見市で地域回想法を実践している方々を招聘して2014年にシーガイアコンベンションセンターで、2019年には宮崎市民プラザで「地域回想法サミット」という全国学会を開催しました。参加していただいた人々からは非常に高い評価をしていただき、本県にも回想法に取り組む施設がいくつか出てきたことは大変喜ばしいことです。しかし、まだまだ行政の関心は低く、地域回想法の広がりはこれからだと考えています。そのための方法を今考えているところですが、できるだけ多くの人に地域回想法を知っていただき、ともに行動を起こせればと願っています。何卒よろしくお願い申し上げます。